大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

札幌高等裁判所 昭和31年(ネ)135号 判決

控訴人(被告) 北海道知事

被控訴人(原告) 渡辺綱彦 外二名

主文

原判決主文第一項を取り消す。

被控訴人等の請求を棄却する。

訴訟費用は第一、二審とも被控訴人等の負担とする。

事実

控訴代理人は、主文同旨の判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。

請求原因の要旨。

(一)  鹿追村農地委員会は被控訴人三名の共有にかかる原判決別紙第一目録記載の土地(本件土地と略称)につき昭和二三年六月一五日自作農創設特別措置法第四〇条の二第四項第四号(昭和二四年六月の改正により第五号となる)による牧野買収計画を樹立しその公告をなし、さらに控訴人は昭和二四年一月二四日付買収令書により買収処分をした。

(二)  しかしながら右買収処分は次の理由により無効である。

(1)  本件土地は登記簿上被控訴人渡辺綱彦、同渡辺彦兵衛及び渡辺徳太郎三名の共有名義であつたが、渡辺徳太郎が昭和二一年四月二〇日死亡し、被控訴人渡辺嘉男が家督相続によりその共有持分を取得したので、本件土地は被控訴人三名の共有となつた。

(2)  ところが、鹿追村農地委員会は右買収計画及びその公告にあたり、また控訴人は右買収処分にあたり、いずれも所有者の表示を「渡辺綱彦外二名」と記載して共有者である渡辺彦兵衛、渡辺嘉男の名を逸脱し、買収令書は「渡辺綱彦外二名」と記載されたものが昭和二四年二月三日被控訴人渡辺綱彦に交付されただけである。すなわち被控訴人渡辺彦兵衛、渡辺嘉男については買収計画及びその公告がなく、さらに買収令書の交付もなかつたものであるから同人等に対する買収処分は重大且つ明白な瑕疵があつて無効であり、ひいて共有者である被控訴人渡辺綱彦に対する右買収処分も無効といわなければならない。

(三)  仮りに前項の主張が認められないとしても、本件土地のうち二二〇番地七九町八反八畝一〇歩の牧草は、管理人岡本新兵衛が土地所有者の代理人として左のとおり藤田基司他数名の者に立毛のまま売却し買人において刈取つていたものである。

年度     数量または面積         買人

昭和二一年度 一尺五・六寸の束四百五、六十把 藤田基司

〃      約三町歩の土地上の草      菅野祐喜

昭和二二年度 一尺五・六寸の束四、五百把   藤田基司

〃      約三町歩の土地上の草      菅野祐喜

〃      約十町歩の土地上の草      飯村春吉

昭和二三年度 約三町歩の土地上の草      菅野祐喜

〃      約十町歩の土地上の草      飯村春吉

かように土地所有者において地上の草を第三者に売つて居る場合は自作農創設特別措置法第四〇条の二第四項第四号(前記その後の第五号)に該当しない。

なおこの附近一帯の土地は海抜五百米余の高地で気候冷涼、草木の繁茂に十分な気温はなく、長年緬羊の牧場に使つたあとなので地味はやせ、草の成長は十分でなかつた。しかも海抜一千二百五十六米の西ヌブカシ山の山麓地帯で人家は稀で草の需要は極めて少い。従つて買受けて刈取る程の草の数量は少なかつたのである。

(四)  被控訴人等の答弁(三)のうち(6)のとおり被控訴人渡辺彦兵衛が昭和二六年八月一五日日本勧業銀行秋田支店から買収代金を受領したこと、同(8)のとおり控訴人が買収令書を郵送して来たことは認めるが、その余の事実はすべて争う。

(五)(1)  被控訴人渡辺彦兵衛が買収代金を受領したのは次のような錯誤に基くものである。当時本件土地とは別に被控訴人等三名共有の土地、鹿追村字ウリマク二二二番地原野三一町八反八畝一〇歩が買収から除外されて残つていたのであるが、渡辺彦兵衛から鹿追町農業委員会に土地買収状況を問合せたのに対し土地はみな買収してしまつて残つている土地はないと回答してきたので、渡辺彦兵衛は右買収除外地の買収代金と錯覚して受領したのであつて買収を納得したものでも、買収令書の受領を追認したものでもない。

(2)  本件土地の買収計画樹立及びその公告、縦覧にあたり、所有者である被控訴人渡辺彦兵衛、渡辺嘉男の名が脱落しておつたから、本件土地は農地法施行法第二条第一項第五号にいう「自作農創設特別措置法第四十条の四第四項の規定による公告があつた牧野買収計画に係る採草放牧地……」に該当しない。従つて昭和三〇年九月三〇日被控訴人渡辺嘉男に対し、昭和三一年一二月一七日被控訴人渡辺彦兵衛に対し買収令書を交付してなした買収処分は無効である。

(3)  本件土地の買収処分は持分買収をしたものではなく、また持分の表示もないから被控訴人渡辺綱彦の持分に対する買収処分としても無効である。

答弁の要旨。

(一)  請求原因(一)及び(二)(1)の事実を認める。

(二)  同(二)の(2)の事実中、買収計画及びその公告並びに買収処分にあたり、いずれも所有者の表示を「渡辺綱彦外二名」と記載したこと、買収令書は「渡辺綱彦外二名」と記載されたものが昭和二四年二月三日被控訴人渡辺綱彦に交付されたことは認めるが、その余の事実は否認する。

(三)(1)  自作農創設特別措置法第四〇条の四第二項によれば「牧野買収計画においては買収すべき牧野……並びに買収の時期及び対価を定めなければならない」旨規定されておる。すなわち買収計画の要件は買収すべき牧野の決定、買収時期の決定、対価の決定である。本件土地の買収計画にあたつては買収すべき牧野を原判決別紙第一目録のとおり決定し、買収時期を昭和二三年七月二日、対価を二一九番地金三、三九五円五一銭、二二〇番地金六、九〇一円八五銭と各決定している。その上買収すべき牧野の所有者の住所氏名または名称を「秋田県南秋田郡五城目町字下町四八渡辺綱彦外二名」と表示してあるのである。また同法第四〇条の四第四項によれば「市町村農地委員会は牧野買収計画を定めたときは遅滞なくその旨を公告し……なければならない」と規定され、買収計画のすべてを公告しなければならないものではない。本件土地の買収計画の公告は右の買収計画の写を掲示板に掲示してなしたものである。従つて本件土地の買収計画及びその公告には何等の違法もないのである。

(2)  買収計画、その公告及び買収処分において、土地の所有者を表示するのは、土地を特定する一要素とするためと、処分の名宛人を明確にして買収対価の受領権その他の法律関係が誰との間で生じるかを明かにしその者に不服申立の機会を与えるためである。本件において所有者として「渡辺綱彦外二名」と表示したのは、登記簿上の共有者である渡辺綱彦、渡辺彦兵衛、渡辺徳兵衛の三名を指したものであり、行政庁の側においてはこの三名について買収の要件を審査し手続の通例に従い登記簿の記載を信頼して買収計画をたてたものである。また買収計画名宛人の側においても、土地が地番地積によつて特定されその所有者として「渡辺綱彦外二名」と表示されれば右の三名を指すことは当然わかるはずであり、右土地の利害関係人にも右三名を指すことはすぐわかるのである。従つて買収の名宛人は自分に対する行政処分であることがすぐわかるから、これに対する不服申立の機会その他の権利または法律上の利益を侵害することはない。かように「外二名」という表示は誰を指すか客観的に看取し得るから、たとい妥当でないとしても違法というほどの瑕疵ではなく、仮りに違法としても行政処分を無効ならしめるほどの重大な瑕疵ではない。

このことは買収処分についても全く同様である。

(3)  買収処分の名宛人の一人である渡辺徳太郎は買収計画のときすでに死亡しており、被控訴人渡辺嘉男が家督相続をしていたが、このような死者を名宛人とする買収計画並びに買収処分も次のような事情のもとでは明白且つ重大な瑕疵あるものとはいえず無効ではない。

(イ)本件土地の登記簿上の共有者の一人渡辺徳太郎は遠隔の地(秋田県)に住んでいたから、その死亡及び家督相続の事実は鹿追村農地委員会にも控訴人にもわかつていなかつた。(ロ)買収計画及び買収処分の時の共有者である被控訴人渡辺嘉男についても本件土地は自作農創設特別措置法第四〇条の二第四項第四号に該当する土地であつた。(ハ)渡辺嘉男は昭和二四年三月中旬頃渡辺綱彦から聞いて本件土地につき買収計画及び買収処分のあつたことを知つたのである。買収令書が渡辺綱彦に交付されたのは昭和二四年二月三日であるから渡辺嘉男は右買収処分に対し不服を申し立てる機会を与えられていたものである。

(4)  共有地の買収処分をするに当り、一通の買収令書に名宛人たる共有者全員を表示し、それを共有者の一人に対して交付してなした買収処分は無効ではない。すでに「外二名」が渡辺彦兵衛、渡辺徳太郎を指すことが明らかである以上、共有者三名の名を列記せず「渡辺綱彦外二名」と表示した買収令書を共有者の一人である渡辺綱彦に交付すれば買収処分としては違法ではない。仮りに違法としても、渡辺彦兵衛、渡辺嘉男は後記のように買収処分のあつたことを知つており、且つ買収対価を異議なく受領して不服申立をなさず処分を異議なく承認しているような事情の下においては重大な瑕疵とはいえず、処分の無効をきたすことはない。

(5)  さらに被控訴人渡辺嘉男は同渡辺綱彦から昭和二四年三月中旬本件土地につき買収処分のあつたことを伝達され、また同渡辺彦兵衛は昭和二四年二月三日から昭和二六年八月一五日までの間に同様買収処分のあつたことを伝達され、あるいは買収令書の移送をうけて、両名とも本件土地が買収されたことを知つたのである。従つてその時に買収令書の交付があつたということができる。仮りにそうでないとしても被控訴人渡辺彦兵衛、渡辺嘉男について不服申立の機会を奪つたことにはならないから本件土地の買収処分が当然無効ということにはならない。

(6)  のみならず、被控訴人渡辺彦兵衛は昭和二六年八月一五日本件土地の買収代金を日本勧業銀行秋田支店から受領し、同渡辺嘉男も同日同渡辺綱彦を代理人として同様に買収代金を受領している。この事実からも買収令書の交付のあつたことが認められる。

(7)  仮りに被控訴人渡辺綱彦が他の共有者を代理して本件土地の買収令書を受領する権限がなかつたとしても、被控訴人渡辺彦兵衛、渡辺嘉男が買収令書の移送を受け、または買収処分のあつたことを伝達されたのに異議、訴願、抗告訴訟等の手続をとらなかつたのみならず、買収代金を受領したのは、買収令書の受領を追認したものである。

(8)  仮りに然らずとするも、控訴人は、昭和三一年一二月一七日被控訴人渡辺彦兵衛に対し、昭和三〇年九月三〇日同渡辺嘉男に対し改めて買収令書を郵送して交付した。従つてこの交付により「買収の時期」に遡つて、被控訴人三名に対し本件土地に対する買収処分の効力が生じたものである。

(9)  仮りに被控訴人渡辺彦兵衛、渡辺嘉男に対する買収処分が無効だとしても、被控訴人渡辺綱彦の持分(三分の一)に対する買収処分は有効である。

以上いずれの点からみても本件買収処分は無効とはいわれない。

(四)  本件土地は自作農創設特別措置法第四〇条の二第四項第四号に該当する土地であつてその理由は原判決の事実摘示四(原判決五枚目表七行目以下)のとおりであるからこれを引用する。

(証拠省略)

理由

請求原因(一)及び(二)(1)の事実並びに(二)(2)の事実中鹿追村農地委員会が右買収計画及びその公告にあたり、また控訴人が右買収処分にあたり、いずれも所有者の表示を「渡辺綱彦外二名」と記載したこと、「渡辺綱彦外二名」と記載された買収令書が昭和二四年二月三日被控訴人渡辺綱彦に交付されたことは当事者間に争いがない。

被控訴代理人は、被控訴人渡辺彦兵衛、渡辺嘉男については買収計画及びその公告がなされなかつたから、本件土地の買収処分は無効であると主張するので判断するに、右当事者間に争いのない事実に成立に争いのない甲第一三号証、当審証人村津安寿の証言を総合すれば、鹿追村農地委員会は、本件土地の買収計画において買収すべき牧野を原判決別紙第一目録のとおり決定し「買収の時期」を昭和二三年七月二日、対価を二一九番地金三、三九五円五一銭、二二〇番地金六、九〇一円八五銭と決定し、その所有者の住所氏名または名称を「秋田県南秋田郡五城目町字下町四八渡辺綱彦外二名」と表示したが、「外二名」とは共有者であつた渡辺彦兵衛及び渡辺徳太郎の氏名を省略したものであつたこと、右買収計画当時同委員会は渡辺徳太郎が死亡しており、渡辺嘉男が相続人としてその持分を承継取得していたことを知らなかつたこと、本件土地の買収計画の公告は右買収計画の写を掲示板に掲示してなされたことが認められ、右認定を左右するに足る証拠はない。すなわち本件土地の買収計画及びその公告には本来ならば所有者として渡辺綱彦、渡辺彦兵衛、渡辺嘉男三名の氏名を表示すべきであつたが、同委員会は渡辺綱彦、渡辺彦兵衛、渡辺徳太郎の共有にかかるものと誤認し、その氏名を「渡辺綱彦外二名」と省略して表示したものであるから、所有者を誤認し且つ所有者の氏名又は名称及び住所を明確に表示しなかつた違法があるものといわなければならない。しかしながら、右の表示は本件土地が「渡辺綱彦外二名」の共有にかかることを明かにしたものであつて、本件土地の所有者である被控訴人三名にとつては、被控訴人三名の共有にかかる本件土地について買収計画及びその公告がなされたものであることは当然知り得たはずであり、原審における被控訴人渡辺嘉男の供述によれば、同被控訴人は昭和二四年三月中旬頃被控訴人渡辺綱彦から本件土地が買収処分になつたことを聞知していたことが認められ、成立に争いのない甲第一四号証の一、二によれば、被控訴人渡辺彦兵衛は昭和二四年八月初めには同委員会から本件土地が買収された旨の通知を受けたことが認められるから、同被控訴人等はその頃までには本件土地につき買収計画及びその公告のあつたことを知つていたものであり、買収処分に対する異議申立の機会がなかつたわけではないと認めることができる。また同委員会が前記のように所有者を誤認したのは登記簿の記載によつたためであつて、遠隔の地(秋田県)にあつた渡辺徳太郎が死亡して渡辺嘉男が家督相続をしていた事実を知らなかつたためであることは弁論の全趣旨から明かであるし、本件土地が右渡辺嘉男についても自作農創設特別措置法第四〇条の二第四項第四号にいう「牧野で所有権その他の権原に基きこれを家畜の放牧又は採草の目的に供することのできる者が現に当該目的に供していないもの」にあたることは後記認定のとおりである。以上のような事実関係の下においては、被控訴人渡辺彦兵衛、渡辺嘉男について買収計画及びその公告がなされなかつたとはいえないし、所有者を誤認し且つ所有者の氏名又は名称及び住所を明確に表示しなかつた違法は本件土地についての買収計画及びその公告を当然無効と解さねばならぬほど重大な瑕疵と認めるわけにはいかない。したがつてこの点に関する被控訴人等の主張は採用できない。

被控訴代理人は、被控訴人渡辺彦兵衛、渡辺嘉男については買収令書の交付がなかつたと主張するのでこの点について判断する。

被控訴人渡辺綱彦が昭和二四年二月三日「渡辺綱彦外二名」と記載された買収令書を交付されたことは争いないところであるが、これをもつて共有者である被控訴人渡辺彦兵衛、渡辺嘉男に対する買収令書の交付とみることができないことは明かである。そうして被控訴人渡辺彦兵衛、渡辺嘉男が前記のように買収処分のあつた事実を知つたとしても右の違法は治癒するわけのものではない。また被控訴人渡辺彦兵衛、同渡辺嘉男が買収令書の移送を受けたとの事実はこれを認めるに足る証拠はない。(成立に争いのない乙第一〇号証には渡辺彦兵衛が買収令書を受領した旨の記載があるが、その年月日が昭和二二年二月二一日とあり、しかも原審証人千貝兵蔵、牧口武彦、小玉レンの各証言によれば「渡辺綱彦外二名」とある買収令書を渡辺綱彦に交付しただけであることが認められるので、乙第一〇号証があるからといつて渡辺彦兵衛に買収令書が交付されたと認めることはできない。)さらに被控訴人渡辺彦兵衛が昭和二六年八月一五日日本勧業銀行秋田支店から買収代金を受領したことは争いないけれども、これをもつて買収令書の受領を追認したものと認めるわけにいかず、他に追認の事実を認めるに足りる証拠もない。

しかしながら控訴人が昭和三一年一二月一七日被控訴人渡辺彦兵衛に対し、昭和三〇年九月三〇日同渡辺嘉男に対し、新たに買収令書を郵送交付したことは当事者間に争いがない。かように令書の交付が「買収の時期」より後に行われた場合でも、その効果を買収の時期に遡つて発生させることは可能であり、そのために被買収者の権利が不当に害されるような事情があるのでない限り、これを違法とするには当らない。そして本件の場合右のような事情は認められない。故に、右の令書交付により、本件土地に対する買収処分は、昭和二三年七月二日に遡り、被控訴人等に対し、確定的に効力を生じたものというべきである。

控訴代理人は、本件土地の買収計画及びその公告、縦覧にあたり所有者である被控訴人渡辺彦兵衛、渡辺嘉男の名が脱落しておつたから、本件土地は農地法施行法第二条第一項第五号に該当しないと主張するけれども、前段認定のとおり本件土地の買収計画及びその公告は当然無効とはいわれないから、本件土地は農地法施行法第二条第一項第五号にいわゆる「公告があつた牧野買収計画に係る採草放牧地」というべきである。従つてこの点に関する控訴人の主張も排斥を免れない。

被控訴代理人は、本件土地は自作農創設特別措置法第四〇条の二第四項第四号(前記その後の第五号)に該当しないと主張するのでこの点を判断する。

原審証人藤田基司、菅野祐喜、飯村春吉の各証言によれば、昭和二一年、二二年、に藤田基司が本件土地のうち二二〇番地で一尺五・六寸の草をそれぞれ四百五・六十把、四・五百把位岡本新兵衛から買受けて刈取つたこと、昭和二一、二二、二三年に菅野祐喜が右二二〇番地で約三町歩の土地上の草を岡本新兵衛から買受けて刈取つたこと、昭和二二、二三年に飯村春吉が右二二〇番地で約一〇町歩の土地上の草を岡本新兵衛から買受けて刈取つたことが認められる。しかしながら訴外藤田基司、菅野祐喜、飯村春吉が、被控訴人等との間に賃貸借または使用貸借等の契約を締結した事実はこれを認めるに足る証拠がなく、また被控訴人等が自ら右訴外人等を使用して本件土地を放牧または採草の目的で使用した事実も認めることはできない。却つて成立に争いのない乙第一号証、原審証人村津安寿、鷲山信枝、丹野末吉、台蔵秀雄の各証言及び原審における検証の結果を総合すれば、本件土地は二一九番地と二二〇番地の境界を幅約一米のウリマク川が北から南に貫流しその両側は約四五度の傾斜地であるが、その他の両番地一帯はおおむね平坦地で一部にドロ、ハン、白樺がまばらに生えているほかは萩、カヤ、ササなどの雑草が密生し本件買収計画及び買収処分当時森林施業案の編成地ではなかつたこと、昭和の初頃から昭和一二年頃までは訴外小室道郎が、また昭和一四年と一五年の二年間は訴外鷲山信枝が本件土地を牧場として利用していたが、終戦当時から買収計画を樹立するまでの間は何人も使用していなかつたことが認められ、右認定を左右するに足る証拠は見当らない。そうとすれば本件土地は、被控訴人等全員について、自作農創設特別措置法第四〇条の二第四項第四号(前記その後の第五号)にいう「牧野で所有権その他の権原に基きこれを家畜の放牧又は採草の目的に供することのできる者が現に当該目的に供していないもの」に該当するものと認められるから、被控訴人等の右主張も採用しえない。

以上説明のとおり本件土地の買収処分には被控訴人等主張の無効原因は認められないから、被控訴人等の本訴請求は理由がないものとしてこれを棄却すべく、民事訴訟法第三八六条、第九六条、第八九条、第九三条に従い主文のとおり判決する。

(裁判官 川井立夫 臼居直道 倉田卓次)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例